Vol.12 世界とか自分に出会い直しているような日々 with 前田ひさえさん

前回、memeとしてお話してくれたイラストレーターの前田ひさえさんに、今回はひとりでゲストに来てもらいました!
今回はひさえちゃんの絵のこと、クリエイティブが生まれるまでのこと、産後新たに勉強したことなど伺って、とてもすてきな回になりました。

ちか

今日のお客様はイラストレーターの前田ひさえさんです!
よろしくお願いします。

ひさえ

よろしくお願いします。

ちか

おはよう。

ひさえ

おはよう〜。

ちか

前回は本当に急なご出演ありがとうございました。
いかがでしたか?お話してみて。

ひさえ

前回本当に久々の3人で、みんなやらかした出来事レポートして、おかしかったね。

ちか

おかしかったね。
聞き返しても痛い感じだった(笑)。

ひさえ

みんなそれぞれやらかしてるなと思って、勇気をもらいました(笑)。
でもその裏で、みんなバタバタしながら日々考えてた話とかができて、改めて嬉しかったです。

ちか

うん、嬉しかったね。

ひさえ

嬉しかった。
なかなかゆっくり話せないんだよね。

ちか

会ってもね、ほんとよね。

ひさえ

この間電撃トークして、しばらく活動してないんだけど、遠くから同じようなこと考えたり見たりしてたのかなと思って嬉しかった。

ちか

本当だね、自分のことを数年間知ってる相手ってまた面白いよね。
その人と話すっていうことで、もう1回見るっていうか。

ひさえ

そうだね、面白かった。
あと人前でこういう風に喋ったりしないから、すごい自分が客観的に見えてトホホって思ったけど。

ちか

いやー、だから私なんて毎日トホホですよ。
ラジオなんて始めてしまったから…。

ひさえ

いやいやいや、すごい素敵なラジオだよ。

ちか

日々自分の中だけで考えていたことを公にするっていうことが、聞いていない人もすごい多いと思うけど、やっぱり外に出すっていうことの怖さもあるし、やる意味ってどこにあるのかなっていうのはちゃんと考えたいなって思ったりもしていて。
些細なことなんだけど、意外と話すってね。

ひさえ

いざ膝つき合わせて話すっていうのが、意外と親しくても難しかったりするよね。

湧き出てるものだけを絵にしていたい

ちか

では本題に。
聞いてみたかった質問をしたいんだけれども、ひさえちゃんの描く絵が私大好きで。

ひさえ

ありがとう。

ちか

うん、本当に好きで。
ひさえちゃんの絵から感じるものっていっぱいあるんだけれども、絵を描くことによって自分に戻ってくる作用みたいなのって何かある?

ひさえ

ずっとそういうのを感じてはいたんだけど、あんまり言語化はずっとできてなくって。
ただ産後にすごい強い衝動みたいな感じで湧き出てる気持ち、でもその気持ちが言葉になってなかったりもするんだけど、湧き出てるものだけを絵にしていたいっていう風に感じることがすごく強くなって。
自分にとってそれがなんなのかって考えた時に、作ることを通して自分を知って、それで自分を支えてるみたいな内面的な作用がすごくあるなっていう気付きがあったようで。

でもそうすると内部で完結したものに聞こえるかもしれないけど、やっぱりそこにはすごく外部の世界、チカちゃんとこう話してるとかそういうことに対するリアクションっていうか、話してポチャンと何か広がったようなものとかそういうのも混ざってきて、そういうのも含めて記録みたいな詩みたいな、そういうものもあるのかなっていうのがより強まった感じはあったかな。

ちか

産後っていうのは、1つやっぱり大きな出来事でもあったんだね。

ひさえ

そうだね。
チカちゃんとかはどうなんだろう。
3人子供がいて、それぞれ何か変わったりしたのかな?

ちか

産後っていうか子供がいるいないでは、やっぱり大きく時間の使い方がまず変わるっていうか、自分の人生において優先順位が変わったので、今まで自分が1番だったのがもう自動的に1番子供、2番子供、3番子供ぐらいで、自分のランクがどんどんバーって下になってくるっていうか。

そうすると私が制作したいとか、いなかった時に100%つぎ込めた制作に対しての頭と心と手が、90%ぐらいいきなりボンってなくなるから戸惑うし、体も戸惑うし、頭も心も全部戸惑っちゃう。
でもどうしたって本能的にいちばん子供に対する時間とか全部を注ぐわけだから、どうしたって絵に影響したっていうよりは、なんだろうね、結果的にそうなるのかな。
でも私の場合は自分を取り戻すための場所みたいなところでもやっぱりあるから、もちろん影響し合ってるとは思うけどね、いろんな生活のことが。

ひさえ

今、チカちゃんが体も心も戸惑うっていう表現をしたけどまさにそういう感じで、私は多分その期間がすごく長くて、もしかしたら今もそうなのかもしれない。

ちか

続いてるよね。

ひさえ

そうなの。
でも今の話を聞いて思い出したんだけど、チカちゃんに本当に初めて会った頃、まだいろは(チカ1人目の子)がちっちゃかった頃に、すごいきっぱり「子供が1番大事だ」って言ったの。
それをすごく覚えてて、今それが繋がった。

ちか

そうだね、そうなっちゃうね。
その「湧き出る気持ちだけを絵にしたい」っていう言葉、とっても素敵だね。

ひさえ

なんか自然にそういう風に思って。
そういう風に変化したんだなぁって、それだけなんだけど。

「とっても知らない」っていう言葉がすごくフィットした

ちか

ひさえちゃんの作品見ながら、その源泉はどんな感じなんだろうって想像したりしてみてて。
産後の個展として開催されたのが、2017年に「くりことあめおに」、2018年に「IMITATIONS」「TOTTEMO SHIRANAI」。
あの「TOTTEMO SHIRANAI」のZINE、大好き!

ちか

それで2021年に「LIGHT AND SHADOW」「TEAR-WATER TEA 涙のお茶」という感じでありましたけど、その中で「湧き出てる気持ちだけを絵にしたい」って想いが投影された感じはあるの?
これは良かったな〜って思うこととかある?

ひさえ

「湧き出る気持ちだけ」っておっきなこと言ったけど、それぞれの時点ではやっぱりすごくままならなくて。
でも振り返って考えると、すべての個展のまずタイトルには自分から湧き出たものが連なってあるなっていう風に思っていて。
もう本当にその時々の生活とか世界とかに、すごく私なりのリアクションをしていて。
「IMITATIONS」は、子供のおもちゃを静物画みたいに描いてたんだけど、それで言えば単純に何かを模した世界、おもちゃって大人の生活を模したものが多いでしょう。

ちか

確かに!そうだね。

ひさえ

おうち、お料理とか今だったら携帯とかもあるし、そういう子供たちの始める小さな生活みたいなことに惹かれたのがまず1つ。
でもその当時の混沌も反映しているというか、育児と自分の絵との間でもう本当に戸惑って途方にくれてままならない、でも渦中にいるとあんまりそこまで分かってなかったけど、全部表れてるなーとは思ってて。
あと育児している自分が、まだままごみたいな感じもあったし。

でも振り返ると全部プレイセラピーじゃないけど、ちょっとセラピー的な感じがいつもあって。
その後もいろんなちょっとしたことに、まず言葉が降りてきて言葉から作っていくんだけど 、「TOTTEMO SHIRANAI」っていうのもまず言葉が来て。
あの時は日々やってたのを集めたんだけど、その時の感覚をまとめると「とっても知らない」っていう言葉がすごくフィットして。
子供がちょっと変な言葉の組み合わせで喋ったりすることにハッとすることが多くて、「何も知らない」っていうより「とっても知らない」の方が今の気持ちを表してるなとか。
そういうちょっとしたスケッチみたいなことをいつもなんとか表そうとはしてるかな。

でも産後のしばらくは「私!私!」って感じで、産後0歳に戻っちゃったみたいな感じがあるって何度も言ってるんだけど、本当に0歳からの成長記録みたいで。
赤ちゃんが「私!私!」って主張するみたいに、ちょっとそういう感じだったなーと。

ちか

そうなんだ〜。
タイトルとかすごい素敵で、いつもDMとか素敵なんだけど、言葉から先に来るんだね。
私の場合、絵描いた後に言葉が付くんだよね。

ひさえ

そうなんだよね。
あとに言葉が来るっていうのは、描いた後に言葉が降りてくるんだ?

ちか

うん、そうね。あと描いてる最中とかね。
だからまず私の場合は、あんまり考えないで描くっていうのを大事にしてて、衝動的とか偶発的なことを探したいっていうか発見したいから。

ひさえ

そうだね、色々違うね。
でも私も言葉はすごいくっきりあるんだけど、浮かんでるわけじゃなくってすごい探しながら描いていて、どっかで思ってたのと違うけどこれだ!っていうのを、なんか探しているかもしれない。
で、その言葉にしっくりくる知らないものを、なんだろう…、イメージは全然ないんだよね。

ちか

そうなんだ〜。
じゃあ言葉を頼りに案内人みたいにしてもらって、連れてってもらうんだ。

ひさえ

そうそう、探してる感じ。
面白いね。

自分のことを前よりも知った自分で、世界を見始めた

ちか

出産があって0歳に戻った感じがあってって言ってて、その中で気付きみたいなことで、ひさえちゃんがちょっとこういうプログラム勉強したんだって言ってるのが、すごいずっと聞いてみたいなと思いながらなかなかゆっくり聞く機会がなかったんだけど、そのことをちょっと聞きたいなと思って。

ひさえ

お勉強だよね。

ちか

お勉強したんだよね。

ひさえ

そう、でもチカちゃんも色々行ってるもんね。

ちか

そう、お年頃なのかな。
あれもうちょっとやってみたい、これもやってみたいとか。

ひさえ

ね、ほんと勉強したいことがいっぱいあって。

0歳に戻ってしまった感じがあってその前にもずっと、みんなみたいにできない!っていう感覚がすごくずっとあって。
それで0歳になって、娘と一緒に世界とか自分に出会い直しているような日々で、そこでいろんな気付きがあって、それがさっき言った心の奥から湧き出てるものを絵にしたいっていうことだったり、そういうことにやっと気が付いた。
変化だったのかもしれないけど、感覚としては前からあったことがやっと気付いたっていう感じが強くて。

でもそれは病みたいなものと繋がっているような感じもあったり、でも希望でもあったり。
なので、自分のことを前よりも知った自分で世界を見始めたっていうところで、勉強している感じを持ち始めたのかな。
それがなんなのかと思った時に自分を知るっていうことで、「癒し」というとちょっと陳腐な感じがするんだけど、知ると理解するってまたちょっと違って、 理解はできないけど知るっていうことがすごく手がかりになる、助けになるなっていうことを考え始めて。

その時に『生きていく絵』っていう本に出会ったんだけど。
荒井裕樹(あらいゆうき)さんっていう人が書いた本で。

ちか

この方、いろんな面白い本を出してるね。

ひさえ

そう、どの本もすごい面白くて。
荒井さんは、障害者文化論とか日本近代文学とか専門の文学者の方なんだけど、被抑圧者、差別されたりマイノリティだったり、そういう人の自己表現活動についてすごく研究されていて。

最初に私が読んだ「生きていく絵」っていうのは、八王子の精神病院に造形教室があったらしくて、そこの教室の人たちについて記録した本なんだけど。
それが、心を病んだ人たちが制作を通して自分の心を癒して自分を支えているっていう記録なんだけど、それを読んだ時に「あ、これ私の中で起きてることに似てる」と思って。

私が精神の病だとかそういうことじゃないんだけど、人間がどっかに持ってる病みたいなものがもしかしたらちょっと人よりは強くあって、なんとなく感じてたことを言語化されたような 衝撃があって、わーって結構驚いてしまって。
何気なく買って読んでみたら、すごいびっくりしてしまって。

ちか

出会ったんだね。

ひさえ

出会ったのね。
それで何かもっと知りたい!っていう気持ちが強くなって。

ちか

「前よりも自分のことを知った自分」っていうのがすごくいいキーワードだなって思ったんだけど、自分を振り返ることもやっぱり必要っていうか、自分のデータが年を重ねると増えてって、自分でその情報を生かすか殺すかみたいなことがやっぱり自分次第なんだなって思った。今、話を聞いてて。
ちゃんとその情報に基づいて自分っていう人をまた見直すっていうか分析して、己が生きやすくするための貴重なデータなんだね、自分を知るって。

ひさえ

そうかも、そういうことをしてたのかもしれない。分析じゃないけど、振り返って。

創造する活動が想像以上に人間を支える

ひさえ

それで何かないかなって思ってた時に、「臨床美術」っていう資格を知って。
それは認知症の方のために始まったプログラムで、でも認知症だけじゃないあらゆる人に有効だっていうことで資格としてあるんだけど、 私は資格が欲しくてそれで何かしたいっていうよりも、どういうプログラムなのかとか、絵を描いてこなかった人、描けない人、そんなに表現したいと思ってない人もできるようなことだから、いきなり描いてどうやって表現に喜びを見出したりとか、心にそれがどう作用するのかとか、そういうことにすごく興味があって、1つの手がかりにはなるかなと思って学んでみたんだよね。

ちか

1年ぐらいのプログラムっていうか、通いながら行ってたの?

ひさえ

そう、でも通ってたのは3か月ぐらいかな。
5級、4級、3級って級があって、私は最初の級を受けて3か月でそれは終了して、もっと本当にそれで活動したいって人は もっともっとやるんだけど。

ちか

絵を描いてこなかった描けない人に対して、呼び水みたいなのを提案してったりして描けるようになっていくの?

ひさえ

それが不思議で結構いっぱいプログラムがあって、例えば「今日はリンゴを描きましょう」みたいなことがあるんだけど、絵を描いてきてない人ってリンゴを描きましょうって言われてもやっぱり描けなかったり、描けないはずはないんだけど描けないと思い込まされているっていう感じがあって。
なんだけど、すごく独特な描き方でこの通りやっていくとリンゴが描けて、しかもみんな同じになるわけじゃなくて、みんなそれぞれにちゃんとその人の個性が現れたリンゴになるみたいな、すごく不思議なプログラムで。

そのメソッドを作った人自体が、芸術家、彫刻家の人が多かったかな。
画家とか彫刻家とかの方々が作ったメソッドで、物を作る人はちゃんと型が決まって職人みたいに描く人もいるけど、さっきもチカちゃんも言ったけど偶然とか、もっと頭で考えてたのを飛び越えるような時に、わ!って思うものが生まれたりすると思うんだけど、そういう想像の過程にあるイメージの飛躍みたいなことをすごく重視していて。
それは右脳を使う、右脳で見るとか言ってたんだけど、それがすごく鍵になるっていう考えでやっていて。
アートセラピーみたいな認知症の治療みたいなことでやってたから、アートセラピーの一種なんだけど、でも他者が治療受けるみたいなセラピーをするっていうイメージじゃなくて。
その人の内側から湧き上がってくるものを引き出すっていう感じのメソッドで、実際そういう風に自分を表せた時に生きる意欲に繋がったりするっていうデータとかもちゃんとあって。
認知症の方はすごい無気力になってたのが生き生きしたりとか、ちょっと不思議なの。

ちか

すごくいいね。
お薬使ったりとかじゃなくて、自分には治す力が本来あるってことじゃない。
本人が治していくっていう、すごくいいね。

ひさえ

そうだね、でも治るわけではないんだけど。
やっぱり認知症の方ってコミュニケーションも取れなくなって訳も分からなくなって。
外から見てるともう人間じゃないって言ったら悪いけど、コミュニケーションできる存在じゃなくなっていっちゃうじゃない。

でもそれは外から見てるとそうなだけで、本人の中ではすごくやっぱり葛藤だとか、ちゃんと聞こえてもいるし、自分に対して尊厳があるのにどんどんそれが失われていくっていうことですごく 意欲をなくしたり、それが余計に悪化させたりっていうことがあるらしくって。
でも自分らしくやれるっていうことがすごく脳にとってもいいし、何より本人の意欲とかに繋がっていくらしいんだよね。

ちか

そっか、大人になると絵が描けなくなるじゃない。
子供ってどんどんどんどん止めどなく溢れるように毎日できるのに、大人ってなんで難しいんだろうって思って。
日常でもっと浄化するように描くと、日々意外と変わってきたりするんじゃないかとか。

ひさえ

大人の人みんな言うよね。私、絵描けなくてって。

ちか

そうそうそう。
歌は歌うのに、みんなカラオケとかで結構歌は歌うのに、なぜ絵は描けなくなる?って思う。

ひさえ

描けないわけじゃないんだと思うんだよね。

ちか

そうそう、みんな描けるよね。

ひさえ

でもやっぱりそれも学校の教育もあるかなっていうのを、ちょっと思ったりもした、学んでて。
うまく描こうとかこれがいいっていうのがあるから、みんな萎縮して苦手になったり。

だからそういう芸術、描くことだけじゃなくてもきっといいんだろうけど、この場合は描くことにフォーカスしてるんだけど、そういう創造する活動が想像以上に人間を支えるっていうのが驚きで。
それはさっき言った「生きていく絵」っていう本の中で起きてたことと同じだなっていう発見があったよ。

生活でも仕事でも、クリエイティビティは生き甲斐に大きく関係してる

ちか

私、ただ線をずっと描いてるだけでも癒される時があって、無心になるっていうか。
そういうのも作用とか何かあるの?

ひさえ

あるある!まさにそういうプログラムもあった。
ただ線を描いてみるっていうか、ちょっと怒った線を描いてみようとか。
ただの線ならみんな引けるじゃない?
でも嬉しい線とか言われると、みんなそれぞれ何となくこういう感じかなって描くじゃない?
その形がやっぱりみんな違ったりして、そこに1つの線だけどそれぞれが持ってる感覚っていうのが滲み出てくるみたいな感じがあって。

ちか

じゃあ私、もしかして細かい作業したかったのかもしれないね。
どこか自分の潜在的に、そういうものを描きたいって思った時は。
心がやっぱり求めてるから、描いてて気持ちいいところがあるのかもしれないね。

ひさえ

そうだね。
でもさっき、クリエイティビティみたいなことがすごく人間を支えるみたいなこと言ったけど、それは本当に絵とか芸術とかだけじゃなくても良くて、お料理とか生活のどこにでも忍び込んでて、そういうところに自分なりの何かがあるっていうのはすごく 生き甲斐に関係するのかな。

ちか

そのプログラムを一旦終えて、やっぱり自分の生活とか仕事にじんわり浸透してる?

ひさえ

そうだね。
さっき言ったみたいに、産後何か変わりましたか?みたいにはっきり変わるものじゃないんだけど、 やっぱり自分の中に1つの本棚ができたじゃないけど、新しい本棚ができたみたいな感じはあるかな。

アーティストじゃなくても全く芸術に関係なくっても、生活でも仕事でもクリエイティビティっていうのは生き甲斐に大きく関係してて、本当に想像ってなんだろうなって考えたし、自分の子供たちとも周りの子供たちとも一緒に考えたいことだなって、それはすごく思った。

ちか

小学校の授業の美術のあり方は、本当に私ももっと考えた方がいい!っていうのは危機感を覚えていて。
工作キットの教材を買わせてそれをただ組み立てるっていうよりも、じゃあまず素材から考えようとか、何で作りたいかとかどういう設計するかとか、その辺がいちばん子供の素晴らしいところが見えるのに、全部大人が教材買ってやるっていうのは、本っ当に大事な時間を奪い取ってるなっていうのは、悲しいなと思う。

ひさえ

うん、なんかもどかしいよね。

ちか

もどかしいですね。

ひさえ

もったいない!って思っちゃうんだよね。

ちか

思うーー。

何もないけれど全てがある

ひさえ

じゃあ私からチカちゃんに、質問もいいでしょうか。
聞きたいこといっぱいあるんだけど、1つ選ぶならこれだなと思ったのはこの質問で、チカちゃんの自分の核になってると思う、思い出すような言葉とか風景とか考えとかは何かありますか?

ちか

そうですね、18歳まで住んだ長崎のうちの目の前が海なの。橘湾(たちばなわん)っていう外海なんだけど。
朝日も見れるし夕日が落ちてくるのも見える、大体1日の空もずっと見えてるんだけど、でもメインは朝焼けが家のリビングから見えるんだけど。
その空と海と空気感っていうか、何にもないところなんだけど、映画の「ベティ・ブルー」って観た?
あれの台詞で「何もないけれど全てがある」みたいなセリフがあって。
それ聞いた時に、私の育ったところみたいだなと思ってて。
そこが確信っていうか、自分の核になってるような感じがありますね。

ひさえ

それを観た時に、わーっていうか、カチっと来たの?

ちか

そうだね、そのセリフね。

ひさえ

でも私にとってもカチッとくるっていうか、チカちゃんを表している感じがする。
育った土地とかすごくイズミちゃんにも感じるんだけど、今見てないけど言葉で聞いて浮かんだ風景みたいなのと、何もないけれど全てがあるみたいな言葉は、すごくチカちゃんとかチカちゃんの作るものに繋がる気がする。

ちか

ありがとうございます。
考え方もやっぱりそうでありたいっていうのがあるかな。
信仰心っていうか心のよりどころって、やっぱり私の場合究極自然なんだよね。
音楽っていう人もいるじゃない?
宗教、ある種のなんとか教っていう人もいると思うんだけど、私の場合自然かな。

ひさえ

うんうん、チカちゃんの絵には自然が入ってるね。
ブルーもすごく印象的だもんね。

ちか

青がやっぱり得意な色なのかもって最近ちょっと思ってて。
全部の色が好きなんだけど。

ひさえ

そうだね。

寝る前はとりあえず頑張ったって自分に言ってあげる

ひさえ

そう、あともう1つ。
自分の好きなところと嫌いなところ、コンプレックスみたいなのがあるなら、もしあるなら何ですか?

ちか

いやもう、自分の好きなところってなんでこんなに出てこないんだろう大人は、と思って。
この前授業参観行ったの、小学2年生の真ん中の男の子の。
授業の中で「自分のいいところを書いてください」って紙、葉っぱの形をした紙で。
先生が黒板に木を貼っといて、みんなが葉っぱを付けてくのがもう一瞬で大木になって、葉っぱがもうすごいたくさん、1人5枚、10枚どんどん書くの。

ひさえ

かわいい〜。

ちか

うん、かわいい。
私この質問で、いやこれもできてないしあれもできてないしみたいに思って難しかった。

ひさえ

うん、でもかわいいね、子供。涙が出る。

ちか

あれは大人は毎朝自分にやった方がいいね。

ひさえ

ね、そうだよね。

ちか

あと、夜寝る前もやった方がいいなと思って。
今日私これができたとか、今日私これ頑張ったとか。
あれもできてないこれもできてない、明日やんなきゃあれもやんなきゃっていつも思いがちだから。

ひさえ

でも私それやってるかも。
寝る前に、本当にもう何にもできなかったって思うんだけど、毎日やりたいことの10あったら1しかできなかったっていうような毎日なんだけど、でも寝る前はとりあえず頑張ったって。

ちか

うん、頑張ったって言ってあげないと、と思った。
それ、いいね。

好きなところね、得意っていうか、夢想家?
取り留めないことをすごいイメージしてみたりとかしてるところかな。
あと好きなことに邁進できることです。

嫌いなところは、あまり深く考えないですぐ行動してしまうところ。
周りをご迷惑おかけしてしまったりするんですけれども。。
あと性格的にこれ直したいんだけど、「清濁併せ呑む」っていうことがすごく難しくてできない時があって、それ大人なんだからしないといけないなっていうのは、もう本当に思う。

ひさえ

でもそれは私もあるかも。白黒っぽい感じってことでしょう。
私もそれはすごくあって、でも大人になってだいぶマシになってきたけど、若い時はそれがひどかった気がする。

ちか

そうだね、なんかシャッターおろしちゃうっていうか。

ひさえ

でも夢想家ね、そうだよね。
さっきイメージの飛躍っていうようなことを言ったけど、チカちゃんは常にそれ(笑)。

ちか

もう常にそれを目指してる!
描いてて、その瞬間を楽しみにしてるから。

子供時代の幸福な思い出

ひさえ

そうだ、もう1個質問。
子供時代について聞きたくて、すごく子供時代に興味があって、人の。
子供時代はチカちゃんがどんな子供だったかっていうのと、子供時代の幸福な時間っていうのがあったら教えてほしいです。

ちか

子供時代振り返ると恥ずかしくない?
私すごい恥ずかしくて思い出したくなかったり、文集とかも恥ずかしくて封印、もう捨てたいぐらい、全部。
なんか恥ずかしい。

ひさえ

でもなんか表れてる。表れてそう。

ちか

私の幼少期は、自分で思うと何度か変化した時期があったような気がして、性格とかも。
小さい頃とか保育園の時は結構おとなしめだったんだよね。
小学校入って低学年の時はボーっとしてる方っていうか、おとなしめっていうか。
3年生ぐらいからなんだか男の子になりたくなった記憶があって、髪も短くして、それまで長かったんだけど。
急に活発になって半ズボン履いたり、思春期になって身体が変わってくるのもすごい嫌で男っぽくしてたりとかあったな。

ひさえ

3年生ぐらいに変わったのは、なんかきっかけみたいなのがあったのかな?

ちか

どうだろうね、クラス替えとかあったりとか、別に何かがあったわけではないんだけど、そう思ったんだよね。
あと世の中の流行みたいなのがあったのかな、自分なりにキャッチした流行がそれだったのか謎なんだけど(笑)。

中高は結構反抗期っていうか、高校生とかも本当コンプレックスの塊みたいだったよね。
でも一貫して家の中でずっと絵描いてるようなとか、本読んでるような子供ではなくて、とにかく海で泳いだり友達と遊んだりってしてたな。
田舎だったしゲームとかもなかったし、あんまりおもちゃを買ってもらうとかもなかったから、自然にそういう遊びになったとは思うんだけれども。

ひさえ

チカちゃん家に子供連れてったりすると思うけど、本当に自然があると子供ってずっと遊んでるね。

ちか

何もいらないんだよね、本当。
大人が与えるっていうことをしなくていいんだよね、本来。

ひさえ

ね、本当。
でも海だね、やっぱり。

ちか

やっぱり海!なんだけど、今、私山奥に住んでて、山が大好き!山が大好きだよ。

ひさえ

じゃあ海と山、両方。

ちか

あと子供時代の幸福な思い出っていうと1つだけポッと浮かぶのが、6歳の誕生日の夜にその時初雪が降って、とっても嬉しくて空見上げてくるくる回って、その景色とか覚えていて。
その日、暗ーい夜の空に白いぼた雪みたいなのが降ってる、すごいハッピーなビジュアルを覚えてる。

ひさえ

すごい素敵な記憶だね。
それで思い浮かぶ風景みたいなのが、シーンとした雪が降ってでも幸せみたいな、そういう感じがチカちゃんの中にそういうのもあるよね。
チカちゃんはさっきも言ったけど、すごいエネルギッシュだしずっと動いてる人って感じだけど、やっぱりそういう風景もあるような感じがする。

ちか

ひさえちゃんは?

ひさえ

なんだろう、人に聞いといて自分の答えはないけど。
私、やっぱりすごく本が好きで、図書館とか図書室にすごく行ってて、そこで座り込んで読んでる時間かな。それすごく思い出す。
あとは、転校生で引っ越しが多くていろんな場所に住んだんだけど、青森に住んでた時があって。
ちっちゃいから、冬になると雪が本当に自分の背丈よりも高いところに雪があって、青白い世界に包まれるような、全部建物とかも雪に埋もれて真っ白く青白く光ってるみたいな風景があって、それがすごく自分の 心象風景みたいになってるかも。

ちか

いいお話。

ひさえ

うん、思い出す光景。

4月に久しぶりの展示

ちか

結構お話したので、まだでも尽きないけれども1回この辺で。
じゃあ最後に、今後のお知らせとか展示とかの予定はありますか?

ひさえ

はい、4月に三軒茶屋にあるtwililight(トワイライライト)さんっていう本屋さんで展示があります。
久しぶりの展示なので、ぜひ。

ちか

はい、楽しみです。

ひさえ

はい、是非。

ちか

ありがとうございます。
本日のゲストは前田ひさえさんでした。

ひさえ

ありがとうございます。

前田 ひさえ(まえだ・ひさえ)

イラストレーター。
1978年生まれ。多摩美術大学卒業。セツ・モードセミナー卒業。
主な仕事に「愛の夢とか」(川上未映子著)「おしりのまつげ」(桐江キミコ著)等の書籍装画や「Fairycake Fair」等 パッケージイラスト、原田知世「銀河絵日記」MVなど。個展・グループ展多数。
また、クリエイティブ・ユニットや、テキスタイル・プロジェクトのメンバーとしても活動中。

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