Vol.20 量産されたクラフトのものがすごく好き with 山野アンダーソン陽子さん

今回のゲストはガラス作家の山野アンダーソン陽子さん、1点1点手吹きのガラスをつくる方です。
なんてことなく日常の中にあって、とってもひっそりと寄り添ってくれて、とても心が健やかになる日用品、というすごさに気付かされます。
山野さん自身にお会いするといつも表面には見えないものがあって、裏というかその奥をチラッと垣間見ることができて、今回もたくさんの新しい彼女の奥の何かを発見できたような気がしました。

恵みの雨真っ盛りの梅雨ですが、みなさんいかがお過ごしでしょうか?
昨日の午前中は家の片付けやら掃除をしてて、少し汗ばむ感じでしたので、お昼ごはんを冷やしそうめんにして、生姜すってネギ刻んで入れてほんとそれだけなんですけど、とーってもおいしくて、とうとうこちらにも山のほうにも短い夏が来たんだなと感じました。

みなさん、夏と冬って器って変えますか?
ちょっと変えますよね。やっぱり食べ物が違うので。
私、長年愛用しているおそうめんはこれ!っていうガラスの器があって、それを久しぶりに出して、これもまた夏を感じる出会いだなぁと思って。
それね、チャリティーバザーで300円で購入したの。
お買い得だったしうれしかったので、すごーくよく覚えてます。
夏の食卓にはやっぱりガラスってすごくいいですよね〜。涼しげで。
日本ってやっぱり目に涼しいとかって、その景色も大事にするから。

だいぶ脱線したんですけど、今回のゲストはガラス作家の山野アンダーソン陽子さんです。
1点1点手吹きのガラスをつくる方なんですね。
私そのおそうめんの重たいガラスと、めんつゆ入れを山野さんの器でいただいて、改めて今回山野さんと話した後に山野さんの器を使ってみて、なんかすごいなと思って。

他にも結構前から山野さんのは使わせていただいてて、花器とかオブジェとかコップとかワイングラス。
コップとワイングラスはとにかく毎日使ってるぐらい、子供たちも。
なんてことなく日常の中にあるんですね。
なんでしょうかね、あのすごさって。
とってもひっそりと寄り添ってくれて。
とても心が健やかになる品物、日用品だなぁと思いました。
日々意識しないけどあらためて眺めると、その強さと美しさと繊細さと、何度も言うけど何気なさのすごさに驚きました。

子供に山野アンダーソンのグラスを使わせるの?みたいな感じなんですけど、私が大ー事にしてるものだから大事に扱ってねって。
ワイングラスって子供たち好きなんですよね。
ちょっと大人の真似して飲みたがるっていうか、ジュースとか麦茶とかでもそれで飲んだりするんですけど、使わせます。全然。
必ずっていうか、割れるんですよね。割れるもの。
だから割ったときに怒らないって自分で心がけてるんですけど。

割れるものを大事に扱うって結構大事だなと思って、それは長女が行っていた保育園で教わったんですね。
そこ全部プラスチックのコップじゃなくて、ガラスのコップを使わせてたの。
その重みを感じたり、飲むときにずっしりした重みを感じながら飲むとか、投げたら割れるんだよって。
プラスチックは投げても割れないんですよね。
だから雑に扱っちゃうんですよね。

うちもキャラクターのコップとかもちろんあるし、使いたいときはそっちを選んでもらうんですけど、私が出す時はほとんどガラスか陶器か磁器ですね。
もう日々はほんとお茶碗も使わせて、日々使うものはなるべくできる限りいいものっていうか、子供にとってそれが日常になるといいなぁっていうのは思っています。
話がまた脱線するんですけど、それを改めて山野さんのガラスを眺めて、すごさに気付きました。

山野さん自身にお会いするといつも表面には見えないものがあって、裏というかその奥をチラッと垣間見ることができて、今回もたくさんの新しい彼女の奥の何かを発見できたような気がします。
それではどうぞお聴きください。

小6の時、ガラスにすごい興味持っちゃって

ちか

こんにちは。

ヤマノ

こんにちは。

ちか

今日のゲストは!

ヤマノ

ゲスト(笑)。

ちか

そうよ、今日のお客様、山野アンダーソン陽子さんです。

ヤマノ

こんにちは。山野です。

ちか

ようこそ、お久しぶりです。
1年ぶりぐらいですか。

ヤマノ

1年ぶりですね。

ちか

自己紹介を簡単にお願いしていいですか。

ヤマノ

日本生まれで日本人だけど、今はスウェーデンに住んでて。
どのくらい?20何年か。
今年がちょうど!自分の会社をスウェーデンで立ち上げて20年目なんですよ。

ちか

おめでとうございます!
すごい節目。

ヤマノ

スウェーデンは、今はちょっとどうか分かんないけど、当時向こうの芸大の大学院に行ってて学生だったんだけど、エヌ コーっていうデパートがあってそのデパートで作品を置いてくれることになったの。
その時に会社登録してないと作品置けないって言われて。
会社登録してないと売れないよって言われて、じゃあしなきゃと思って必死でやったの。
だから今あんまり覚えてないんだけど、どんな風にやったかとか。
でも、スウェーデン語の紙にいっぱい書いて、その当時はやって。
そこから20年、今年。
だからなんかしようかなと思ってるんだけど。

ちか

そうそう、それで皆さんはまだ彼女が何をしている人かまだ何も。
日本人で、今スウェーデンで。

ヤマノ

スウェーデンに20年住んでるんだけど、スウェーデンのガラス産業がすごく大きくて、当時。
量産されたクラフトにすごく興味があって、量産されたクラフトのガラス食器に。

ちか

それは大学生になってからですか?
それとも日本にいて?

ヤマノ

日本にいてそれを知った。
小学校6年生の時に、母がいつも美術館とかに連れてってくれたのね。
その時にどっかでやってた北欧展みたいなやつかな?に行って。
それこそフィンランドのアアルトとかカイ・フランクとかもあったし、コスタ・ボダもヌータヤルヴィとかもあったし。
そういうガラスだったり陶器だったりとかテキスタイルもあったのかな?ちょっと忘れちゃったけど。
で、ガラスにすごい興味持っちゃって。

ちか

小6で!?

ヤマノ

でも日本に住んでたら陶芸はやるけど、ガラスってどうやってつくられてるとかとか見たことないし、何しろマテリアルがすごい。
編み物したりとか手芸やったりとか、あとお習字もやってたから紙とかもすごい好きだったし、とか。
だけどガラスって何?と思って、素材がね。
そこでガラスに惹かれて。

ちか

まず素材に惹かれたんですか?
フォルムとか用途とかよりも、ガラスっていう素材?

ヤマノ

そう、なんで透明なんだろう?どうやって作られてんだろう?みたいな。
陶器は想像できるけど。

ちか

土である。

ヤマノ

そう、これってなんの素材?と思って。
土なの?プラスチック?みたいなのがあって。
その当時インターネットとかもないので、図書館行ったり神保町の本屋さん行ってすごい昔の本あさって読んだりとかしてるうちに。

ちか

え、小6で?

ヤマノ

それ、中学生ぐらい。
小6で興味を持ったの。
そこから色々調べて、中学校でそういう調べ物をして、高校の時ぐらいには大体。

同じに見えるんだけど、実は微妙に違うっていうのがすごい好き

ヤマノ

スウェーデンにガラスの産業地帯があって、色々あるんだよ、ガラスって。
ミラノから始まったり、その前はもっと古いところから始まって、オーストラリアにもあるし、アメリカのスタジオガラスも有名だし、とか色々あるんだけど。
色々考えた結果、私やっぱり量産されたクラフトのものが好きなんだなと思って。

いつも例えるのが、おばあちゃんのごはん作るお手伝いとかをしてた時に、グリーンピースを房から出すんだけど、そのグリーンピースを選別するのよ。
すごいおっきいのとか小さいのとか、少し傷があるのとかっていうのを選別したりとかして。
それが一見ぱっと見ると同じに見えるんだけど、実は1個1個微妙に違うっていうのがすごい好きなの。なぜか。

量産されたクラフトのものもそうで、一見同じに見えるんだけど1個1個微妙に違うところがすごい好きだなと思って。
そういうものができるものづくりみたいなのに、関わっていきたいなとはなんとなく思っていて。

だから1点もののアートピースみたいなのを作るっていうよりは、みんなが普段自分のものとして使えるようなものを作っていきたいなって思った時に、スウェーデンのガラス産業にまで行きつき、それでスウェーデン大使館に通い資料をいただいたんだけど、それもスウェーデン語で、だからスウェーデン語の辞書を買いってやって。
そしたらたまたま高校生の時の英語の先生が、旦那さんの都合でスウェーデンにずっと住んでたっていう方がいて、その人から色々聞いたりとかして、向こうの芸大だったりとかの情報聞いたりとか。

あとガラスって、作るのにすごい時間かかるの。
だからこっちの大学出た後にガラスの学校に3年間行って、もう月曜日から土曜日まで毎日ガラス吹いて、6時15分から15時15分まで工場に合わせて吹いて、そこの職業訓練所でガラス食器を作る技術を学ぶんだけど、元々はそこのガラスの学校っていうのは、卒業した人が仕事がすぐできるように、まず3年間下積みさせてから工場に送り込まれるっていう学校なの。
でも今オートメーションが進んじゃって、手で1個1個ガラス食器を作ってないし、その学校もうなくなっちゃったんだけど、要は窯をずっと保っとくっていうのもすっごいお金がかかるから。

ちか

陶芸だと今、石油の窯とか電気窯あるけど、ガラスもそうなんですか?

ヤマノ

ガラスは、スウェーデンは基本的に電気。

ちか

電気で1000度ぐらい?

ヤマノ

1200度。

ちか

1200度までやって。

ヤマノ

365日ずっと保っとかなきゃいけないから。

ちか

なんで保っとかなきゃいけないんですか?窯の中をずっと。

ヤマノ

窯に溶けてるから、ガラスが。

ちか

そこから取り出して。

ヤマノ

継ぎ足しの焼き鳥のタレみたいな感じで、なくなったらガラス入れてってやってるから。

ちか

そうなんだ〜! 今朝、質問した「失敗したらどうするの?」って「またできる」っておっしゃってたじゃないですか。
なるほど、そういうことなんですね。

ヤマノ

そう、だから私は、透明なガラスっていちばんガラスっぽいと思うんだけど、透明なガラスを使うことによってリサイクルもできるので、色とかを使っちゃうとゴミになっちゃうから。

ちか

そういうことか。

まずは衣食住の「衣」から学んだ

ちか

さっきお話の途中で「こっちの大学」っておっしゃってたのは、私びっくりしたんですけど、ガラス作家を志す前はテキスタイルとかお洋服を作ってたって。
それはもうとっても意外だったし、あと絵を描いていた?

ヤマノ

そうなの。
服飾でテキスタイルの模様の絵を描いてたので、基本的にガッシュとアクリルとセメントまみれで絵を描いてたんだけど、4年間。

ちか

それはだから、日本で18〜22歳ぐらいまで?

ヤマノ

うん、そう。
お洋服もスーツ作ったり、いまだにスーツ自分で作ったの着てたりとか。
でも別にファッション業界をディスるつもりは全くないんだけど、 私には合わないなと思って。
サイクルの速さとかやっぱり流行があったりとか、なんか合わないと思ったんだよね。

でもそこで、ファッション業界に行きたいのかって言われたらそうじゃなくて、ガラスをずっとやりたかったんだけど、遠い親戚に画家さんがいて、日本の方なんだけどずっとフランスとかに住まわれてて、その人に相談したの。中学生の時に。
「私、ガラスやりたいんですけど、どうしたらいいですか?」って言ったら、その人が「日本のガラスって今、大学レベルできちんと学べるところが陶芸科にくっついてるだけでないから、もし日本で勉強したいんだったら、とりあえず大学まで出れるんだったら、別の将来自分がやらないようなことをやったらいいよ」って言われたの。

ちか

へぇ〜!すごいアドバイスですね。やらないことをって。

ヤマノ

そこを勉強することによって、自分が将来ガラスやろうと思ってることに活かせるからって言われて。
だけど例えばガラスだけをやったり、陶芸をやってガラスを学んだりとかすると、頭が陶芸頭でガラスを見るから、そうしない方がいいっていうアドバイスをもらって。

「衣食住」って言うじゃん。
なぜか私は「食」と「住む」っていうことはガラスでできる気がしたから、「衣」の部分でもう多分携わらないだろうなと思って、ファッション業界を勉強しようと思ったの。
そしたら生活の中で、衣食住として自分の中でバランス取れるかなって、勝手にね。
もちろん子供だから、そこまで深くは考えてないけど。

ちか

いやいや、すごい子供ですよ!結構。

ヤマノ

でも本当に今思っても、そのおじさんのアドバイス、やっぱりその人もずっと芸術の中でいて、だから親戚の中では「あの人変わってるね」ぐらいな。
銀座のギャラリストとかついて、たまに展示会とか行かせてもらったりとかしたけど、「絵描いてるおじさん」みたいな感じだったのね。
だけど、 本当にあの方のアドバイスで私はこういう風に進もうって思えたし。

だからその当時の自分としては、衣食住の衣の部分で学べて絵も描けて、自分が普段やらないようなことをそこで学べてこれたから、ガラスをやってるけど、少しガラスだけじゃないことを学べたことは良かったなって思ってはいる。

機械と人間が対等に扱われるのは間違ってる

ちか

去年、東京のオペラシティで展示が終わって、広島の美術館で終わって、7月13日から熊本市現代美術館で展示があるんですよね。
そのタイトルが「山野アンダーソン陽子と18人の画家」。

今の話と繋がったのが、布で衣食住があって、だからガラスを通してその周りも見てるし、周りを見ながらガラスを見てる。
今回の展示のこともそうなんだけど、お話聞いててちょっと感動したのが、なぜその展示をやりたかったかっていうところの話がすごく良かったので、その辺お聞かせいただきたいんですけど。
スウェーデンのガラス産業の話からその話になったので、ちょっとその辺の話を教えてもらってもいいですか?

ヤマノ

ガラスが私は好きで始めて、最終的にスウェーデンのスモーランド地域にある、ガラス工場地帯っていうのがいっぱいあるところに行き着いて。
そこは当時2000年代はじめには、もう何社も何社もガラス工場があって、車レンタカーしても3日間かけてガラス工場全部回っても回りきれないぐらい、いろんな種類の工場があったの。

ちか

なんでスウェーデンなんだろ。
寒さとか、気候とかが合ってる?

ヤマノ

気候も合ってると思うんだけど、国自体がガラス産業に力を入れたのね。
材木が採れるとか、今は材木を使ったりとかしないけど。

ちか

そっか、燃料だから。

ヤマノ

燃料、水が採れるっていうのがスモーランドにあって、森がすごいから。
あと、そこに住む地域の人たちもみんなガラス産業に携わってきてるから、仕事ができる。
それこそガラスを吹かなくても、梱包する人、ガラス洗う人、それを販売する人、検品する人、材料を運ぶ人とか。
そういう産業自体が発達することで、そこに住んでる人たちの生活をサポートすることもできるし、っていうので発展したのね。

その地域で私はなんか学べると思って行ったんだけど、私がちょうど学校3年間やり終わって卒業する前から、ガラス産業がすごいグダグダになってきて。
要はEUに加盟したことで、スウェーデンって人件費が高いんだよね。
で、他のEUの国で人件費の安い国に生産を移すことになって。

スウェーデンで一緒に村で暮らしてる人たちが、どんどんどんどん職を失っていくわけよ。
すごく技術のあるガラスブロワーたちが仕事なくなって、タクシードライバーになったりトラックドライバーになったり、日金を稼げるようなその日暮らしの生活ができるような仕事に移行したりとかしてるのを見て。

ちか

それってEUっていうのもあるし、世界全体で、例えば無印のこと悪く言うわけじゃないけど、大量生産でそれなりに結構かっこいいプロダクトのものができて、手吹きであるとか、量産されたクラフト、民芸品的なものが広く届かなくなってきたっていう動きもあるのかな。

ヤマノ

私は、量産してあるオートメーションの機械で作られたガラス自体が悪いとは全く思わなくて。
ただ人間がそこと同じに、対等に扱われるのは間違ってると思ってて。
だって人件費があるから。

ちか

それ言ってたよね。
「Made in Sweden」にどういう意味が含まれてるかっていう話が面白かった。

健康的な産業のあり方にお金を払いたい

ヤマノ

スウェーデンでそういう議論があって、なぜ私たちが「Made in Sweden」を求めるのかっていう議論があって。
そのパネルディスカッションに呼ばれた時に、「Made in Sweden」は質がいいとか、「Made in Sweden」はかっこいいとかデザインがいいとかってみんな話すんだけど、私は違うなと思ったの。
私がなんで「Made in Sweden」を買って、例えば「Made in China」とかを買わないんだろうと思ったら、今はどうか分からない、マシになってると思うけど、当時の中国のガラス産業も見てきて。

スウェーデンだと、どんな労働者も4週間の夏休みがあったり、8時間以上労働しないとか、手が痛かったらサポーターつけてもらえるとか、そういう労働組合がちゃんとしてる中で「Made in Sweden」っていうのが、物を見たら質はそこそこかもしれないけど、その裏にある工程の中で、人間が関わってきた人権っていうものがすごく守られてる気がするから、そこに対して私は対価を払ってるっていうことに自分の中で気づいて。

健康的な産業のあり方に私はお金を払いたいと思ったから。
もの自体の質の良さって見えてるだけ、横から見た景色、横から見たデザイン力がすごいとかすごくないとか、置いといてかっこいいとか、そういうことではないんじゃないかなって思って。
そこに対価を払っているから、実際いま産業が全部EUに拡大されて、もっと人件費の安い国に産業を移されて、ヘッドオフィスだけスウェーデンに残って、でも「Made in Sweden」って書けないから「Made in EU」なんだけど、「Design by Sweden」になってるのね。

でも、それって私はお金払えるのかなと思ったの。
「Design by Sweden」ってどこまで人権が保証されてるんだろうって思って。
でも産業がそうなってきたのって、人間が機械と比べてるからだと思って。

私もガラス3年間学んだ時に、月曜日に先生がワイングラスを持ってくるの。
型吹きされたきれいにできたものを持ってきて、ポンってテーブルの上に置いて「今週、来週これやります」って。
その先生がお手本で出してきたものを、みんなが必死でチームで1000個も2000個も2週間かけてつくるの。
それで「うまくできた」って 言うんだけど。
こっちも嬉しいよ。うまくできるようになって、初めガタガタでできないけど、型使ってきっちり長さも測って、脚の長さとか。
でもバーって並べた時に、1000個と2000個全く同じものができて、機械でボタンを押して1000個、2000個作るのと、人間が必死でチームで作ったのと全く同じなの。

私は人として、機械と戦っても絶対機械の方が安いじゃない。
そこに行ったら、私たち人間って自分たちで自分たちの首絞めてんじゃないかなと思って。
その違いが分かる人はいいよ。
ガラスオタクからしたら、これは機械で吹かれてる、これは人間が吹いてるって分かるよ。だけど私も他のことに関して、例えば布とか木工とかあんまりよく分かんないから、これが手でつくられてますとか機械でつくられてますとか、判断できない部分もいっぱいあって。
そういう人たちが結構多いんじゃないかなと思ったの。
ガラスのことに関しては。

ちか

いや、絵でもそうですよ。
手描きっぽく描いて、全部AIが描いてるとかね。

ヤマノ

うん、でもそれって分からないから、そこを自分たちが、さも機械で吹いてるように人間がつくることがいいことじゃない気がして。

使ってもらえるものをつくりたい

ヤマノ

だから私はもう自分が工房でできるとしたら、型を使わないでその時のガラスの流れとか感じで、自分でできる最大限のことをしたものづくりをしようと思って。
だから効率は悪いから、工場ではそんなつくり方もできないし。
1700年代、1800年代はそれでやってきたので、だから今アンティークのガラスとか見ると、歪んでるものとかいっぱいあるじゃない。
あれって手で吹いてたからなんだけど、私もそういうやり方を工房でしてて。

でも今、私の一緒にやってるチームメイトたちも、それぞれ3人ともアーティストなんだけど、彼らは自分たちのアートピースをつくってるの。
でもアートピースって1個つくったら、工場もそうなってきてるんだけど、1個つくったら100万とか200万で売れるじゃない。
2時間とか3時間で制作して、100万、200万で売れたら1か月生活できるし。
そういうアートピースの量産みたいのを工場とかでもやり出してるの、今。
工場もほとんど潰れてとか合併して3、4社になっちゃったんだけど、残ってるところはそうやって縮小してアートピースを作って。
だから食器とかはつくってもたかがしれてて、ワイングラス1個100万とかにはならないから、どんなに頑張っても。
つくる人もいるし100万で売ってもいいんだけど、買ったところで100万のワイングラスなんて使わないじゃない。
そうなると、アートピースっていう方向性に今なってて。

でも私はやっぱり使えるもの、生活してる人たちの自分のものだっていうもので使ってもらいたいと思うから、そういうものづくりができたらいいなって考えて。
分かんない、模索してるけどね。

ちか

でも行き着いたのが、だんだんこの20年間でやりながらそういう考えに今たどり着いたのか、結構最初の大学の終わりにすぐガラス作家として生計が立てれたっていうか、もうそれで生きてきたわけですよね、今。

ヤマノ

でも、やりながらかも。
それで美術館の話に戻ると、美術館で展覧会をさせていただくっていうことになった時に、そういうガラス産業がどんどんどんどん小さくなっちゃってるのって、ガラスを知ってる私たちがどんどんどんどん探求すればするほど、自分たちの世界にこもりまくっちゃってるなと思って。
分かる人は分かるけど、分かんない人はもう今更何を分かったらいいのか分かんないみたいな。
だから自分もそういう風に、他のマテリアルとか他のことに関してすごい感じるし。

ガラス食器にまつわるやりとりを見せたい

ヤマノ

美術館っていう場所を公の場にするのであれば、もう少し、手でつくられたガラス食器が存在してるんだっていうことを分かってもらうだけで、例えば自分たちが今使ってるお家のガラス食器がちょっと気になったりとか、レストラン行ったりカフェで飲んでるガラス食器が、展覧会見た後にちょっと気になったりとかそういう風になるだけで、もしかしたらガラス産業が。

ちか

そっか、そういう時代なんですね。
もうガラスとはそもそも何かが分からないぐらいな時代になっていて、手吹きガラスが美術館で展示されるぐらいの時代になっているっていうのも、逆に言えますね。

ヤマノ

そうね。
でも今回、現代美術館で展覧会させてもらうのも、ガラス食器を見せたいわけではなくて、ガラス食器にまつわるやりとりというか。
私のガラス家としての思惑はそこなんだけど、そこにフォトグラファーだったり、グラフィックデザイナーだったり、ペインターだったりっていうのが加わって。
もっと言うと、企画会社の方だったり、美術館のキュレーターだったり、あと設置してくれる人たちいるじゃない。
壁のこととかカッティングシートとか、きちんとポデュームつくってくれたりとか。

そういう人たちが携わっていく中で、見えてくるガラスもあるだろうし。
ガラスしか興味ない、ガラスだけやってればいいんだっていう世界ではないっていうのを、少し表現したいなとは思ったんだけど。

ちか

ガラスを中心として入口をいっぱい、引っかかり口をつくっているっていうことでもあるんですか?

ヤマノ

うん、そう。

ちか

そして陽子さんがおっしゃってたみたいに、例えばギャラリーだと、アートが好きな人、カルチャーが好きな人とかクラフトが好きな人だけが来るけれども、美術館でやることの意義は、何にも知らなかった小学生とか、 車椅子乗ってみんなでイベントの一環で来た人が、1人でも「お!」っていうとっかかりが作れたりとか。
もっとパブリックっていう想いがあったって聞いて、そこが今回のなんか発見だったんですよね。
陽子さんの今回のその展覧会についての本当の意味っていうか、想いっていう。

ヤマノ

なんか、かっこいいじゃん。 自分たちの目指してる専門のところをぐーっとやってた方が自分も気持ちいいし、突き詰めれば突き詰めるほど自分にとっても楽しいし。
だけど、本当それだけでいいのかなって。

産業が潰れていくのを目の当たりにしてきて、自分たちが専門的になり過ぎたために、こうなっちゃってるんじゃないかって思った時に、パブリックを意識してガラスにそんなに興味が今のところない人たちに、どうやってアプローチしたらいいんだろうってなった時に、展覧会をさせていただくことで広がっていく何かがあるのかなとか。
自分にできることは、ガラスを工房で吹いてつくってっていうだけじゃない責任みたいのがあって、ないのかもしれないけど、そういうこともやっていいんじゃないかな、やるべきなんじゃないかなっていう風に思ってたっていうか。

ちか

今の話聞いててちょっとズレるけど思い出したのが、その万人に分かる広さで私、感動したことがあって。
ブルーハーツがすごい好きで、クロマニヨンズのコンサートにいづみちゃんと行ったの。
2人ともクロマニヨンズの曲全部知らないの。
みんな縦ノリでノってんだけど私たち分からないんで、でもとにかく甲本ヒロトが見たかったの!動く甲本ヒロトが。中野サンプラザで(笑)。

で、2人で帰りに居酒屋に行って振り返りしてたの。
甲本ヒロトのあそこが良かった、マーシーのここが良かったって話してて。
でも私は結構感動したことがあって、会場に行って感動したことが、モヒカンのジャラジャラのロックンロールでトゲトゲスタッズばっかりつけてる、ドクターマーチン履いてるみたいな子ばっかりじゃなかったの、全然。
車椅子で来てる人もいたし、若い子もいたし、お年寄りもいたし、よく分かんない私みたいな人もいて。
だから、そこでみんなで何かを共有している感動があったんだよね。1つのものに対して。

だから例えば今回のガラスもなんだけど、陽子さんの本当の想いっていうか、そういう広くみんなと共有するっていうか、共有っていう言葉でもないのかもしれないけれども、それを今ふと思い出した。

ヤマノ

感じ方とかは、もうそれぞれじゃない。
だから私たちがコントロールすべきでもないし、コントロールできることじゃないけど、自分にできることをして伝わることがあればあったで嬉しいし、なければないでそれはそれでいいのかなとは思っていて。
企画をされてる会社の人とかからしたら、もっとお金になんなきゃいけないとか色々あるのかもしれないから、私みたいな考え方では甘いこともあるかもしれないけど。
でも私だって、「山野アンダーソン陽子と18名の画家」って名前使われるのすごい嫌で、やだやだってすごい駄々こねたわけ。

ちか

それも意外だった(笑)。

ヤマノ

3回もミーティングして「嫌です」って言ったんだけど、それがないとって言われてもう泣く泣くのんだよ。

ちか

でもなんでこんな陽子さんって強さがあったり繊細さがあったり、ガラスも作品見てもそうなんだけど。
でも今回スウェーデン産業の話とか、なぜ「Made in Sweden」とかの話を聞いて、展覧会にすごく行きたい!って思いました。

ヤマノ

ありがとうございます。

誕生日は、仕事しないでベートーヴェン聴くって決めてる

ちか

もう時間になってしまったんですけれども、最後にちょっと個人的な質問をしてもいいですか?
この前、誕生日だったじゃないですか。
おめでとうございます。

ヤマノ

ありがとうございます(笑)。

ちか

どんな誕生日を過ごされたんですか?

ヤマノ

私はもう誕生日は決めてることは、絶対に仕事をしないって決めてて。
電話も取らないしメールも見ないし、本当に仕事しなくて。
朝、学校に息子が出てって、その後にのんびりちょっとつまみつくって飲みつつ、ベートーヴェンのピアノソナタ第2楽章をかけて、リピートしてかけて、ピアニスト別にかけて、ピアニストによって全然違うので。
でも、もうその日しか聴かないって決めてるから。

ちか

年に1回だけ?

ヤマノ

年に1回だけ。
着信音とかにしちゃうと、ありがたみがなくなるじゃない。
もうどうしても悲しくてどうしてもしょうがない、悲しいか分かんないけど、今んとこないけど、なんかどうしてもしょうがない時は聴いていいっていうルールを自分の中で作ってて、でもまだ今んとこなくて。
誕生日にそれをずっと飽きるほど聴いて過ごすっていう。

ちか

それは誕生日プレゼントみたいな?自分への。

ヤマノ

そうそうそう、それでほろ酔いで美術館に行くっていう。

ちか

へぇ〜!それ何年ぐらい続けてるんですか?

ヤマノ

毎年やってるよ。いつからだろう。
スウェーデンに行ってからかなぁ。
だから20年ぐらいはそんな感じの誕生日。
全然そんな感じよ。
1人で過ごして、17時ぐらいに息子と夫が帰ってくる頃には。

ちか

できあがって?

ヤマノ

いや、もうお酒も抜けて。

ちか

抜けてるんだ!(笑)

ヤマノ

抜けて、もうすっかりごはんも作れる準備をして、「おかえりー!」なんて言って、さも普通に仕事してたかのような素振りで。
だから土日になっちゃうと辛いんだよね。
今年金曜日だったから「フゥーッ!」って思ったけど、来年土日になるでしょ、きっと。

ちか

また素敵な誕生日になるんじゃない、それはそれで。
ベートーヴェンの第何楽章?

ヤマノ

もう1回しか言わない。
だってみんなそんなそれぞれでいいと思う、私は。
いいのいいの。なんだっていいの。

ちか

そうね、なんだっていい(笑)。
いや〜、もっと聴きたいんですけれど、またぜひ。

ヤマノ

ぜひ呼んでください。うれしい。

ちか

ありがとうございます(笑)。
今日のゲストは、山野アンダーソン陽子さんでした。

ヤマノ

ありがとうございます。

ちか

ありがとうございます〜。

山野アンダーソン陽子(ヤマノ・アンダーソン・ヨウコ)

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展覧会

ガラスの器と静物画 山野アンダーソン陽子と18人の画家

2024.7.13(土)〜 2024.9.23(月・振休)
熊本市現代美術館
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展示販売会

Yoko Andersson Yamano “HANDLE WITH CARE”

2024.7.17(水)〜 2024.7.28(日)
ユトレヒト(東京)
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