Vol.23 大好きなことを大切にするのがいいと思う with 殿塚竜夫さん

今日のゲストは、私が住んでいる長野県茅野市にあるパン屋さん「カルパ」のたつおさんです。 8年前、縁もゆかりもないこの地に引っ越してきたけど、近所に美味しい優しいパン屋さんがあることが私の日々の小さな幸せを作ってくれてると思います。

ちか

今日のゲストは、カルパの殿塚竜夫さんです。

たつお

よろしくお願いします。

ちか

お願いします。

たつお

カルパの殿塚竜夫(とのつか・たつお)です。

ちか

私たち、いま長野県茅野市にいるんですけど、長野県茅野市にあるカルパっていう天然酵母のパン屋さんの店主。

たつお

はい、パン屋さん。

ちか

スケーターであり。

たつお

スケボーをしてます。

ちか

初めてお店に行ったとき、なんていうか優しい空気が流れてたなって思うよ。

たつお

そっか、そう思ってもらえるのは嬉しいな。

ちか

たつおさんがそんな感じだもんね。

たつお

うーん、優しい雰囲気、そうね。

ちか

うん、お店自体がそう思った。

違う生き物と一緒に仕事をしてるみたいな感じ

ちか

「カルパ」に意味ってあるの?

たつお

「カルパ」は一応意味があって、知らなかったっけ(笑)?

ちか

カルマとか?そんな深くない?

たつお

サンスクリット語の言葉らしいんだけど、宇宙の始まりから終わりまでの時間の単位が「カルパ」っていう言葉らしいです。

ちか

聞いたことあったわ、、でもすぐに忘れてたわ。

たつお

うん、それでいいと思います(笑)。

ちか

1カルパが一つの一生みたいなこと?

たつお

一生っていうか、1カルパが宇宙の始まりから終わりまでみたいな感じなんじゃないの?

ちか

それは前世、来世的なこともあるのかな?

たつお

ね、だからそういうすっごい大きな時間で、パンに向き合う価値観がそういうのにも近いところがあって。
酵母菌、自然酵母でやってるから、違う生き物と一緒に仕事をしてるみたいな感じがあって。
僕らの時間軸とは違う時間軸で動いてるものたちと、仕事をしてる感覚があるのね。
だからそういうでっかい時間とかそういったものを大切に、人間社会の何時何分何秒じゃない時間みたいなものを意識しないと、失敗したりするんだよね。

ちか

失敗っていうのは、パンが膨らまないとか美味しくなかったっていうのを失敗っていうの?

たつお

うん、いちばんいい状態でパンにできなかったみたいな感じかな。
本当はあと15分とか30分くらいオーブンに入れるのを待ったほうがいいんだけど、でもお店の都合上ここで入れとくとか、あと自分のレシピの計算だとここで発酵が終わるはずだっていうので、こっちの都合でパンをやるとそういうパンになってるっていうのを何回か経験してて、そうじゃないことができたらいいなっていうふうに思ってるんだよね。

少しずつできるようになるみたいのが好き

ちか

私、たつおさんのイメージの一つに、ヨガで逆立ちするたつおさんが結構衝撃的だったんだよね。
今日も鼻うがいの話とかしてたじゃない?
何かインドに魅せられたとか、インドに行ったことがあるとかあるの?

たつお

そういうことじゃなくって、僕が逆立ち好きなのは、ヨガもやってたこともあるけど、ちょっとエクストリームなポーズっていうか、そういうのも好きで。

ちか

それはスケボーにちょっと通ずるものがあるの?

たつお

うーん、あるのかな。
でもヨガの流れもあるし。

ちか

壁倒立はできるけど、あの自力でグーッてあげるのはすごく難しい。

たつお

うん、難しいよね。
その難しさみたいなのも多分好きなんだと思う。

ちか

挑戦するのが好きって言ってた!

たつお

そうそう、スケボーもコツコツコツコツやんないとうまくならないから、ちょっとずつやって少しずつできるようになるみたいなのが好きで、逆立ちもそういうとこがあったような気もする。

ちか

壁倒立できるけど、あれはなかなか難しいよね。
えいやってあそこまで持ってくこと自体はまず難しいよね。

たつお

えいやってあげると勢いでいっちゃうから。

ちか

腹筋も必要だもんね。

たつお

そう、一個聞いた話は、体の中の水のバランスを変えていくと重心が移ってくるから。

ちか

一個ずつ積み上げるような。

たつお

そうそうそう、背骨を積み上げるっていう人もいるし、水分をこっちに移して。

ちか

イメージも大事なんだね。

たつお

そういうのも僕ずっとスケボーを子供の頃からやってたから、頭の中でこういうふうな動きをしたいっていうイメージで、実際の体を動かすってのが好きなんだと思う。

ちか

そんなちっちゃい頃からしてたの?スケボー。

たつお

小学校の頃からしてて。

ちか

そうなんだ〜、趣味があるっていいね。
私はずっと趣味がなくて、趣味がある人がすごく羨ましかった。

たつお

やってたときは別に何も思わなかったけど、今になると良かったなって思うこともあるよね。

頼まれなくてもやるみたいな好きなものがあるっていいなって思う

ちか

生涯の趣味みたいになってない?もうこの年になると。
私よりちょっと上よね。

たつお

僕はいま46か47ですね。

ちか

私も43歳なんだけど、40過ぎて初めて自分の趣味に出会ったような。

たつお

お茶?

ちか

そう、でもまだ趣味って呼んでいいのかもちょっと恐れ多い感じもして。

たつお

でもいいことだね。

ちか

だからもう30年以上は趣味、スケボーでしょう?

たつお

そう、だから頼まれなくてもやるみたいな好きなものがあるっていいなって思う。

ちか

ほんと行ってるよね。

たつお

もうやるなって言われてもやるっていうか。

ちか

たつおさん、本当に行ってるよね、スケボー。
夜中でも行くしね。
本当に大好きなんだね。

たつお

そうね、本当に好きなんだろうね。
やるのも好きだし見るのも結構好きだったりとか、その物体も好きだったりとかして。

ちか

私にスケボーの魅力を教えてくれませんか?

たつお

スケボーの魅力ですか。

ちか

ちょっと乗ったことがあるぐらいで何も知らない。
もちろんどういうものかは分かるけど、その魅力とは?
鍛錬するとか研鑽を積むとかはあると思うんだけど。

たつお

そうね。

ちか

カルチャー的なものもあるじゃない?
見た目がかっこいいとか、ファッションでもあり。

たつお

すごく気持ちいいと思う。
もう滑ってる感じが気持ち良かったりとか、バランス取らないとコケるじゃん?
あの上ってグラグラしててバーっとか滑ったりするし、それをずっとバランス取ってる感じも多分気持ちいいんだと思うんだけど。
でもそういうのはちょっとスケボーから離れたときに思うことで、乗ってないときとかスケボーのことを考えてるときとかに考えることで。
魅力は、気持ちいいっていうのかなぁ。

ちか

物体が好きっていう別の側面から見ると、タイヤが好きとかってこと?

たつお

タイヤは多分そんなに好きじゃない(笑)。

ちか

うちの息子は言ってたの、タイヤが好きって。
コロコロ転がるっていう、動力にもなるじゃない?

たつお

うん、車が好きとかバイクが好きとか、男の人ってそういうタイヤの乗り物が好きっていうのはあるけど、僕そういうのもあんまり引っかからなくって。

スケボーからいろんな方向に興味が湧く

たつお

1人でもできるし誰かともできるしどこでもできるし、スケボーに乗ると見え方が変わってくるっていうか、世の中の。

ちか

へぇー!そうなんだ。
それはお茶でも言えるかな。
そこを通して世の中を見ると見え方が変わるとかそういうこと?

たつお

そうね、そういう深い話もあるかもしれないし、実際問題、遊び場になるわけね、街中がスケボーに乗ると。

ちか

普通の道路とかも。

たつお

そうそう、ベンチとかも。

ちか

歩く早さでもなく車でもなく自転車でもなく。

たつお

そう、そこにベンチがあったらただ普通に暮らしてるとそれは座るだけのベンチだけど、スケボーになると、その上で滑ったりとかその上でトリックをやったりとか、そういう遊び場に変わるわけじゃん。
階段があったりとかしてもそうだし、それを飛び越える遊び場になったりとかして、もうそういうのが面白くって。

ちか

怒られたりしないの?
「なんでベンチでそんなことやってんだ!」みたいな。

たつお

言われる。

ちか

やっぱ言われるんだ。

たつお

言われる言われる。

ちか

おじいちゃまとかおばあちゃまとか?

たつお

うん、とかいろんな人にね。

ちか

そういうときはその笑顔で(笑)?

たつお

そう、別に歯向かったりもせず「あぁ、ごめんなさい!」って。

そういうので見てると、誰も見向きもしないような誰の役にも立たなそうな街中のオブジェクトが、スケボーに乗るとすっごい面白い場所に見えたりとか、それを同じ趣味を持ってる人に写メして送ると、ワァーってなって「最高だね!」みたいになったりとか。

ちか

そういう共通言語があるんだ?

たつお

そう、共通言語があったりとかそういう楽しみもあるし、そっからいろんな方向に、建築に興味が湧いたりとか。

ちか

スケボーとパンの繋がりってあるの?
そういう意味で、建築とって言うと。

たつお

うーん、直接的な繋がりみたいのは多分ないとは思うけど、でもやっぱりスケボーやってきてたから今パン屋をやってるってことは多分あって。
地道にコツコツ好きなことだったら、労力を惜しまず練習っていうか探求ができるとか。
そういう忍耐力みたいなとことかも、スケボーでも養われてきたっていうか慣れてきたものもあるし。
直接的に繋がってる部分はないかもしんないけど。

ちか

なるほど。
遊びっていうところとパンの奥深さと面白さみたいなところが、やっぱ好きっていうのがたつおさんの中で同じ好きがあって、全然違う物体ではあるけど。
今思ったのが、手間暇を惜しまずとか何かを積み上げていくとか、今の世の中っていかに簡単にとか時間をかけずに効率良くとか、そこにすごく私ポイントがあるような気がして。
だからカルパに初めて入ったときにやっぱ優しい時間が流れているって、何とも語源化できないんだけどそれなのかもって、今ちょっとぼんやり掴めそうな掴めないような。

仕事で面白いと思ったことはずっとなかった

ちか

その辺の何か商売のヒントっていうか、でもやっぱり商売として成立しないとね、2人のお父さんだしさ。

たつお

戻したね、話を(笑)。

ちか

ちゃんと仕事してるじゃん。
私より仕事してるよ。

たつお

でも仕事はしてると思う。
僕も全然仕事好きなほうじゃなくて、できることなら働きたくない人ではあるのね。
ずっとそういうふうに暮らしてきてて、ずっとバイトしてて、もう正社員とかにはずっとなってなくて。

ちか

ずっと聞きたくて聞けなかったんだけど、インスタにBB編集長ってあるじゃない?
今日、初めてそれって何?って聞けたんだけど、BRACK BOOK?

たつお

そう、『BRACK BOOK』っていうフリーペーパーをスケボーしてるときに作ってて。

ちか

それは何年ぐらいなの?

たつお

2003年とかそのぐらいかな、20歳くらい。

ちか

1人で?

たつお

最初2人でやってたんだけど、途中から1人でやってて。
写真撮って文章を書いて印刷して折ってホチキスでとめて、スケートショップに置いてもらったりとか、本屋で売ってるスケボーの雑誌に挟んだりとか。

ちか

勝手に?ゲリラ的に?

たつお

そうそう、勝手に(笑)。

ちか

面白いねー。

たつお

それやってたから編集長って呼ばれてて、いまだにそういうあだ名で呼ぶ人が2,3人いるんで、ただそっから。

ちか

その前はグラフィックデザイナーをしてたんだっけ?
18,19で?

たつお

いや、もっと後、ちょうどそのやってる頃だと思う、20歳過ぎたぐらいとか。
そのくらいまではもう本当に適当なバイトをずっとしてるだけで。

ちか

どんなバイトしてたの?
面白かったバイトとか。

たつお

あんまり仕事もそんな好きじゃないから、仕事で面白いと思ったこともずっとなくて、クリーニング屋とかやってて、1人でできる仕事みたいな。

ちか

受付?

たつお

うん、受付。
だからちょっと隠れてゲームボーイやったりとか、そういう働き方をしてました(笑)。
あとは無印良品でバイトしたりとか、それが一番長く続いたかな。

ちか

意外〜。
あ、でも昔の無印、面白かった時代なんじゃないの?あのときの。

たつお

そうなの、僕はヘルスビューティー担当だったけど。

ちか

もうそのときにはあったんだ、ヘルスビューティー部門。

たつお

うん、あったあった。
衣料品のほうのカタログとか見て、好きなやつを発注したりとかしてましたね。

自分の気持ちに正直になれるところにエネルギーを使いたい

ちか

そういうスタイルだったんだ。
それを経ての、パンと(ルヴァンの)甲田さんと出会ったの?ある日突然。

たつお

そうなんだよね、グラフィックデザインとか制作の仕事してたんだけど、そっちにちょっと行き詰まりを感じてきちゃって。

ちか

その行き詰まりっていうのは、体を動かさないとか単純にずっと机に座ってるのがやだとかじゃなくて、内容的なこととか?

たつお

うん、内容的なもので。
全部が全部ではないけど、あんまり売る必要がないものの付加価値をつけるための広告みたいなふうにも捉えられるように、自分の中でなってきちゃって。
これをずっとやってくのは結構きついかも、もっと自分の気持ちに正直になれるところにエネルギーを使いたいなって思うようになってきたのね。

ちか

いま、もうアンダーラインだったよね。
すごいいいね、そうだよね。
そこに気付くか素直にならないかなるかで、人生すごい分かれない?

何となく見て見ぬふりしていろんな理由をつけてそこにとどまるか、本当に正直に心の向くほうに行くその勇気も必要だよね。

たつお

別にその職種自体が悪いって言ってるわけじゃなくって、もちろんそれは本当に素敵な仕事で、僕もそういう広告の世界とか大好きだしワクワクする気持ちはあるんだけど。
僕の場合はって話ね、そう思うようになって。

その次にいいなと思ったのが、その間になんでそこがいいかって思うようになったのかは、、それに行くのもスケボーがあるのか、最初に。
スケボーして街の中でずっとやるんだけど、オフィス街とかそういうところで映像を撮ったりとかするんだけど、警備員に怒られたりとかするのね。
どんどんそういうのが多くなってきて、どこで遊んでても怒られるようになってきて。
最初のうちはそういう追っかけっことかも面白かったんだけど、誰もそういうのに引っかからないで滑るみたいなそういう遊びも楽しかったけど、ちょっと飽きてきちゃって。

有機農業との出会い

たつお

そういうときに何かの拍子で山に行ったのね。
そしたら山って誰も怒らない、どんなに遊ぶっていうか好きなふうに歩いてても。
「わ、これ面白い」と思って山登りをしたの。

ちか

そういうことがあるんだぁ!
そういうふうに思うんだ、山に入って。

たつお

なおかつ広告とかの仕事をしてたから、人が暮らしてるとこにいるとやっぱり広告ばっか目につくんだよね。
それは山に行って気付いたんだけど、それですごい疲れてたっていうことに気付いて。
「看板もないわ〜」みたいな、当たり前なんだけど。

ちか

山って偉大だな〜!ってあらためて。

たつお

そう、あらためてそういうふうに感じたの。
そこでちょっと山にハマったりとかしてて。

山にハマるのと同時に、山がハゲてたりとか何か変な形してんなみたいなのがちょっと見えるようになって。
なんだろなんだろうっていったらやっぱり環境問題とかに当たって。

そういうのにダメージを与えてるものの一つとして、食べ物を作る農業っていうのがあるなっていうことを知ったのね。
それで有機農業っていうやり方もあるっていうのも知って、有機農業に出会ったのは宮古島だったんだけどね。
その宮古島もただ旅行で好きで行ってただけなんだけど。

あの島は川がなくて隆起サンゴの島だから、そこで農薬使っちゃうと即流れるとか化学肥料を使うとすぐダメージが水に影響が出るとかで、有機野菜を作る人がいるっていうのを宮古島で見たガイドブックか何かで見て「あぁ、そうなんだ」と思って、そんなこと全然知らなかったから。

ちか

私、いま知ったよ。

たつお

それでちょっとドクンとくるものがあって、山関係からもそういう気持ちになったりとか、グラフィックデザインの仕事してるときのモヤモヤ感みたいのがあって、そういうのが積もり積もってって。

ちか

それっていくつのときだったの?

たつお

30ぐらいかな。
それで有機野菜とか自然食品の流通の会社に転職したの。

ちか

そうだったね、そういえば八百屋もやってるって言ってたね。
いろんなたつおさんの点で聞いてたことが、今日結びついてるわ!

たつお

そっか、それは良かった。

すごいいい世界だなと思って

たつお

で、そこは広報編集っていう部だったから入れたんだよね。
制作できるとか文章を書けるとかそういうのがあったからそこに入れて、農業のこととか全然知らなかったんだけど、それでも入れたからその中で仕事してたんだけど。

そこで農家の聞き取りとか、どういうふうに野菜を作る技術があるかとかそういうのを聞きに行ったりとか、それを編集してお客さんに届けるみたいな仕事をしてたの。
そこは契約した農家の野菜を買ってお客さんに届けるっていう契約栽培っていうか、全量買取して農家がまた作れるような体制を作るっていうようなことを大切にしてて、結構いいなと思って。

それまでの仕事ってお金もらえればいいやっていうふうな感じだったんだよね、僕の中で。
制作の仕事とかも誰かの役に立ってるなぁみたいなことは何となく思うけど、でもそこで終わっちゃうっていうか、一個のお客さんが終わっちゃうとまぁ大変だったけど良かったなみたいな感じで、そこで終わっちゃうんだけど。

八百屋の仕事はもうちょっと、他の働いている人のスタイルがすげぇあったかいっていうか、こんな働き方あるんだなと思って。
それまで仕事って稼ぎっていうかお金もらうだけが仕事かと思ってたんだけど、会議で泣いたりとかそういうところとかを目の当たりにして、そうなんだねと思って。
実際やってることも本当に自分らがいいって思うものを分かってもらって、それをお客さんに届けてお客さんにも満足してもらって、その対価でこうやってちゃんとお金が回ってくみたいなことをやろうとしてたから、本当にいいなって単純に思ったのね。そういう仕事のやり方が。

そういうとこで働かせてもらってて、仕事内容が農家に聞き取りに行ってそれを伝えるっていうことやってて、農家に野菜を作るテクニックっていうか「技術とかはどんなものなんですか」とか浅はかだから僕は聞いてて、全然知らなくて。
そしたらみんな土の中の微生物がどうだとか、土作りだとかそういう話をしてくるのね。 あぁそうなんだ!と思って、もう少し何か派手なテクニックなことを言うのかなと。

ちか

美味しいとかきれいとかじゃなくて、本当にそこのいちばん目に見えない部分のお話をしてくれたんだね。

たつお

で、なんだろうと思って、会社にいっぱい本あったからそれで勉強してたら、発酵っていうか微生物の菌の働きで有機物を植物が吸収できる形に分解して、それを野菜が吸って美味しい野菜になってみたいな、そういうものが見えてきて、素晴らしい世界だなと思って。

それを食べた人の中も全部菌が働いてくれてて、出したものだって分解してまた土になって。
その循環の輪みたいなものがこんなものがあるんだなと思って、なんかすごい楽しく感じたんだよね。
すごいいい世界だなと思って。

それでそういうのを扱える仕事をできるのは嬉しいなと思ってたんだけど、スケボーしててZINEを作ったりとかTシャツ作ったりとか、そういうものを作るのが好きだったから、自分でも何かそういう発酵に関するものを作ってみたいなって思ったわけ。

ちか

もうめちゃくちゃすごいいい話だね!
私がたつおさんのことを知ってるからか、でもすごい面白いなぁ、この話。

目の前からなくなったのが、すごい気持ち良くって

ちか

そこでやっとパンにたどり着くの?会社辞めて。

たつお

まだ会社にいる頃なんだけど、それは。
それで最初はりんごジュース100円で買えたから、それにイースト入れて酵母ができて「これが酵母か」と思って、それに小麦を混ぜたらちょっと膨らんで「これ焼けるかもしれない」と思って、生地をこねて家のオーブンで焼いたのね。
そしたらもうカチカチのパンではあるんだがパンが焼けて、それ美味しそうって思ったのよ。
「うわ!美味しそう」と思って。

ちか

すごーい!
たつおさんとパンとの新たな出会いだね。
ある日突然1人で?

たつお

うん、1人で家でやったから、黙々と1人で何も言わずにやってたと思うけど。
それで食べて美味しいと思って、それが目の前からなくなったんだよね。
それがすごい気持ち良くって。

ちか

食べ終わったってこと?なくなったっていうのは。

たつお

そう、今までは物を作ってたまっていくのが、ZINEもそうだしTシャツもそうだし。
楽しいんだけど気持ち悪いっていうか、ちょっとモヤモヤする部分があったんだけど。
物を作る創作意欲も満足できて、気持ちいいし美味しいし、なおかつなくなった!と思って、これもしかしてこれだったらいけるかもしれないと思って。

ちか

へぇー!
たつおさん、今までの話聞いてて思ったけど、すごく素直だよね。
自分に素直っていうか、そこすごいポイントだね。

でも何も否定はしてないじゃない? 全てにおいて。
中指立てて世の中に反骨精神いっぱい!とかじゃなくて。
何かずっと黙って観察しながら、でも何かをすごく求め歩いてるわけでもなく、本当にゆっくり流れながら自然に出会ったものをちゃんと見てるっていうか。

たつお

そうだね、だから最初っからパン屋がになりたいわけじゃなかったっていうのはあって。
パンが大好きでパン屋巡りしてたとか、そういうタイプの人じゃないのね。
だから、パンが大好きでパン屋になってますっていうパン屋じゃないんだよね。

自分の好きなものに正直にいれる環境は大切だなと思う

ちか

それすごくいい道しるべの一つだなと思ったんだけど。
子供に何か将来のことを考えなさいというときに、まず「好きなことは何?」「それのためにこれがあって、これをするためにこう歩きましょう」みたいなことをすごく言いがちだけど、全然そうじゃなくても漂っているときにちゃんと見ていればちゃんと流れ着く、行くべきところに行くっていうような、すごくいい話だな!

たつお

でもそういうのも、誰に頼まれなくてもやっちゃうぐらいな好きなものがあるっていうのが1個たぶん柱になってて、それが僕の場合はスケボーだったんだけど。
何かそういう1個好きなものがあって、それを素直に続けてればなんかいいことがやってくるっていうか、それさえあれば満足できるっていうベースがあるから。
そういうのが1個あるっていうのは支えっていうか、自分の好きなものに正直にいれる環境というか世の中っていうか、そういうのは大切だなと思うな。

ちか

でも意外となかなかできなくて悩んでる人って多くて、好きなことと仕事を別で考えないと生きていけないっていう考え方になりがちで、それを両立させるとか好きなことをしてて「そんな楽しいことばっかりして甘ったれんじゃないわよ」みたいなことの考え方もすごく多くって、最近は減ってきてはいるとは思うんだけど。

そういう一歩踏み出す強さとか、そこをちゃんと成立させようというところとか、やっぱりお店を営んでいる以上、自営業のオーナーで事業主じゃない?
そういうところで気をつけてることとか、ちゃんと毎日パンがはけるようにとか、やっぱりそういうことはもちろん考えてやってるでしょう?

たつお

うん、いっつも考えてる。

ちか

何かそういうポイントとか、でもやりすぎると自分の気持ちに嘘ついちゃうからここは大事にしてる、とか何かある?

たつお

うーん、全部が全部、自分の理想だけでパン屋をやってるわけじゃないと思う。
少しパン屋であれるようにチューニングしてるっていうか。

ちか

逆にその理想のパン屋、見てみたいけどね。

たつお

それはもっと働かないとか。

ちか

週1とか?

たつお

そうね、自分の働き方のエネルギーがまだちょっと強すぎるから、自然に働くにはもう少し減らした方がいいのかなとか思うけど。
それが人によって、どのぐらいだと怠けるっていうのもあるからさ。
そういうところかな、ちゃんと仕事してるなって自分でも思う(笑)。

正直に大好き!っていうものを大切にするといいと思う

ちか

私、コシラエルやめてもう2年経つの。
初めてこんなに自分の時間とか家族の時間を大事に、何も生産性があんまりない時間っていうか、それってものすごい気持ちが良かったの。
稼いでない時間のほうが簡単に言うとすごい幸せっていうか、もちろんすごく好きだったんだよ、コシラエルのことも物作りも。

でも人って稼がないととか働かないととか、そのバランスの取り方って結構麻痺しちゃってるというか、基本を誰かに作られてるような資本主義社会で、何時に起きて寝て生きて朝昼晩食べてとかなんだか…。

何を言いたかったかっていうと、意外とそこには何か幸せの鍵みたいな、ボーっとしたりのんびりしたり無の時間だったり、そこをわざわざ作らないといけない今。
頑張って確保しないと取れないっていうか。
もうボーっとしてたらすぐ何か入ってきちゃうから。
そこにはものすごくかけがえのない時間が流れていることに私は気付いたり。
それあんまりやってると本当に生活に響くから、うちも3人いるから、そこはいま自分の課題っていうか。

たつお

そうだよね。
だから本当に好きなことをして働いてるふうにも見えるかもしれないけど、全くそんなことはなくて。結構悩んでる、悩んでるよ(笑)。悩んでるっていうか、ちゃんと考えてる。

ちか

そういう大人がいるっていうことが、子供とか世間とかにこういう働き方があってこんなふうな人間がいるっていうのも、一つのなんだか、それが成功とか成功してないとかすごい稼いでるかとかそういう軸じゃなくって、そういう人がいてそういうふうに働けてるとか、こういうことに感動して今パンをやってるっていうことが、すごく素敵だなと思う。

たつお

そっか、ありがとうございます。
僕はそういう好きなものがあるとか、自分がもう正直にこれが大好き!っていうものを大切にするといいと思う。

ちか

本当だよねぇ。

たつお

案外そういうのがうまくいく方法に繋がるっていうか、自然じゃない?そういうことやってる方が。
僕も好きなふうに好きなことで仕事してるわけではないけど。

ちか

どういうこと?スケーターになりたかったとか?

たつお

いや、でもそれも自分では選ばなかったんだけど。
でもそういう好きなことがあると、それがスケボーなんだろうけど、そういうとこに行くとやっぱ立ち返れるっていうか、何でもない自分になれるんだよね。
そういうのがあるっていうのは良かったなって思う。

何となく分かりますか…?

ちか

うん、すごいいい話聞けた。
自分を縛っちゃうのも自分で、こうでなきゃって思ってるのも意外と自分だったりするしね。

たつお

だからパン屋でいれるのかなって思う。
ただ本当にパンだけでやってたらもう少し息苦しくなるのかな。
分かんない、スケボーもいつまでできるか分かんないけど。

ちか

たつおさんの点で聞いてた話が今日繋がったわ、8年目にして。

私が何でカルパに行こうかと思ったかっていうと、引っ越してきて友達が全然いなくて、本当に何にも知らなくて引っ越してきたの。縁もゆかりもなく。
そのときに引っ越して本当に一番最初に思ったのが「近所に美味しいパン屋があったらいいな」なんだよね。
意外と引っ越し先でパン屋さんを探してたような気がして。
朝食べるとか、それ小さな幸せなんだよね、日々の。

たつお

またお米とは違う何かあるよね。

ちか

うん。それで探して戸を開けたっていうのがすごい覚えてる。

たつお

ありがたい話ですね。

ちか

こちらがですよ。

自分の周りが少しずつ良くなってくことを繋げていきたい

ちか

何か最後に言いたいこととか、逆に私に質問とかある?

たつお

ちかちゃんに質問あるけど、ぱっと出てくるかなぁ…。
でもこないだ、全然質問とか最後に言いたいことじゃないかもしれないけど、農家の人と話をすることがあって、みんな知ってることかもしんないけど僕はすごくハっとした言葉があって。

その人は有機農業をやってる人で、やっぱり手間もかかるし大変な部分も多いんだけど、「僕が続けることで、美味しい野菜が採れること以外にも環境の管理が行き届く」って言ってて。
だからすごいいい仕事だなと思ったんだよね。

日本の農業とかも、きっとうまく回ってるときはそういうところもうまくできてて、里山の風景とかもそういうところがあって田んぼがあって、その近くに人間が住んでて山と里の境界線があって、畑とか田んぼすることによって管理ちゃんとできててみたいなところがあって。
そういうのが、自然と人間の関わりのちょうどいい場所のラインがあったのかなと思ってて。

その話を聞いたときに、すごいやっぱり農業って大切だなって思ったの。
いま小麦を使わせてもらってるのも、僕がちゃんとすごいいい小麦を作ってるなって人の小麦を使うことにしてて。
それが100%じゃないんだけど、他の白い小麦は製粉会社の小麦も使ってたりするけど、全粒粉の小麦はそういう人の小麦も使えてて。
そういうことをどんどん繋げてけば、世の中の悪い部分もあるけど、自分の周りとか自分の仕事の周りは少しずつ良くなってるかなって思ってて。
そういうことを繋げていきたいなと思った。

ちか

いい話!
これ聞いた人は多分、カルパにパン買いに行ってみたいなって思ってくれたような気がする。

たつお

そういうふうに見たら世の中がよく見えたんだよね。
良くなってくなぁっていうふうに見える瞬間があって、悲しいニュースとかどうなってんだよって思うことがすごい多いけど。

ちか

私もその話聞いてて思ったのが、地球汚染とか環境破壊とか気候危機とか言うけど、ある学者の人の話によると、人間が地球に住み始めたり斧を持った時点で、森を伐採したら地球に入ってくる光の入り方が変わるから、もうそれだけで植生も変化してるし、農業をすることによって人間と自然が上手に関わり合うと上手に共存するいいバランスのところがあるっていう。

この前ちょうど長崎行ったときに聞いたのが、松茸も人が里山に入っていろいろちょっと手を加えるから、松茸がいい状態で取れるんだってね。
手入れをちょっとしてるから、入らないから不作だとかそういうのがあったり。
だから棚田とかもすごい自然の風景に見えるけど、実はすごく人工物でもある、ある意味。
そういうことを聞くと一緒に生きる!みたいな、一部になって一緒に水はけを良くしたりとか、食べ合うっていうか採ってもらって渡すとかできることをね。

たつお

そうね、それが仕事って呼べる仕事。

ちか

地球の仕事っていうか、人間の仕事っていうか。

たつお

うん、それができていくといいなって思う。

ちか

さすがカルパ、壮大な。

たつお

いやいやいや(笑)。

ちか

まだ1カルパしか生きてないから、たつおさんは100カルパぐらい生きてるのかな(笑)。

ちょっとごめんね、長くなったけどこんな感じで締めましょうか。

たつお

はい、ありがとうございました。

ちか

今日のゲストは、パン屋さんの殿塚竜夫さんでした。

たつお

ありがとうございます。

ちか

ありがとうございました〜。

KALPA

長野県茅野市にある、長野県産小麦と自家製酵母のパン屋。
目の行き届く確かな原材料を使い、フランスの伝統的な製法で現代的なパンを焼いています。
使用する全粒粉は近隣の有機農法や自然農を実践されている農家から直接仕入れて、仕込む分をその都度自家製粉しています。
酵母は小麦から培養した小麦酵母(levain)のみをすべてのパンに使っています。
KALPA(カルパ)とはサンスクリット語で「宇宙の始まりから終わりまでの時間」のこと。
大きな宇宙の中で小さな酵母菌が働く、ゆったりとした時間を感じてもらえたら。と思います。
八ヶ岳山麓の冷涼な気候と澄んだ空気の中で育った酵母たちが醸す風味をお楽しみください。

【実店舗案内】
〒391-0211 長野県茅野市湖東8777-1
TEL.0266-55-5386
営業時間 10:00〜18:00
定休日 日曜日・月曜日

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